『「反原発」の不都合な真実』という本を読んだので、メモ。
内容を乱暴に要約すると、今の日本で脱原発しても良いことないよ~、という話。 原子力技術、自然エネルギー技術、放射能の健康影響、脱原発の経済的影響など様々なデータを元にして書かれており、拙速な脱原発に対するカウンターとして有効な議論だと思った。 でも、個人的にはこのレベルの議論では、まだまだ不満。 というわけで、以下に、疑問点とか書きます。 (全体的に批判チックになってるけど、そんなに悪い本ではないです。 近視眼的な「原発=悪」の図式の外から書かれているだけで、かなり好感度高し。)
1. 放射能の健康へのリスク本書では、原発事故による死亡リスクを、タバコや交通事故や大気汚染由来の死亡リスクと比較している。 それによると、100ミリシーベルトの被曝が原因で死亡する確率は、タバコが原因の病気で死ぬ確率はもちろん、交通事故や大気汚染による死亡よりも低いのだという。 確かに、原発を無闇に恐れる必要はないって意味では説得力があるのだけど、本質的には比較する意味がないデータだと思う。
その理由は、原発事故ってのはブラックスワンだと考えられるから。 ブラックスワンというのは、確率論や従来からの知識・経験からでは予測できない極端な現象が発生し、それが人々に多大な影響を与える事象こと。 交通事故や肺ガンのリスクって、事象がベルカーブに分布してるので、ある行為なり状態なりのリスクは一定で、統計を元に一般化が可能。 でも、ブラックスワンは、ある一点が突出して、統計全体に破壊的な影響を与えるので、平均を取る意味が無い。 世界の富の9割を1割の人間が握っているような場合、一人あたりの富の平均を出しても意味が無いのと同じ。
ブラックスワン的に大きな原発事故を考えた場合、100ミリシーベルトって被曝量にどんな意味があるのか判然としない。 そんな数値を、タバコと比較してもねぇ・・・。
経済に明るいはずの著者が、ブラックスワン的な観点で検討していないのは、残念。
<蛇足>
池田信夫センセによると「福島原発は東日本大震災というブラックスワンを乗り切ったので、そういう事象にも耐性があるのが証明された」とのこと。 ・・・そりゃあ運が良かっただけと言うものでしょうよ。 あんなギリギリの線で持ちこたえたものを、そんな風にドヤ顔で言われても、説得力無いよなぁ。
http://blogos.com/article/9533/
2. 原発事故の原因著者によると、原発事故の原因は地震や津波ではなく、人為的なものが大きいと言う。 今まで起きた大きな原発事故は、単純なミスに足元をすくわれて起きているとも。 技術的には自然災害に耐えられるから、原発をそんなに不安視する必要はないよ、と言うことを言いたいのでしょう。
でも、これは逆に絶望的な気持ちになる。
普通に考えて、人の問題の解決が一番難しい。 技術的な問題よりもずっと。 後知恵バイアスが効いてるから、地下に予備電源施設があるとか、単純なミスに見えるだけ。 なんで、誰も指摘できなかったのさ? あるいは、指摘されたとして、それに基づいてちゃんと対策ができなかったのは、何故なんだい?
脳科学や、それを応用した行動経済学の研究によって、人の認知は様々なバイアスによって歪められ、正しい判断/行動ができないことが明らかになってるはずなんだよね。 それはつまり、大規模な自然災害が無くても、事故は起こり得るということ。 これまた、経済学に明るいはずの著者が、なぜかこの観点をスルーしてる。
3. 核燃料サイクルの話僕の知る限り、核燃料サイクルって実質的には破綻してると思うんだが、著者はこれが実現目前かのように書いてる。 もんじゅとか、何兆円もかけてまだ1ワットも発電してないんだぜ・・・。 稼働予定を何回先延ばしにしているのか分からないくらいだし。 まあ、これについては僕も印象論で語ってるので、本当のところは良くわからないのですけど。
ちなみに、自然エネルギー推進派の人達(の一部?)は、自然エネルギーがすぐにでも原子力や火力発電より安くなると言う。 これはどう考えても、誇張が過ぎる。 でも、著者もこれと同じことを、逆方向でやっているだけな気がする。 原子力の未来について書かれた章を読んでいると、そんな印象を受ける。
4. 今のところの個人的な意見のまとめ今の日本で即座に脱原発というのは、意味が無いと思う。 これは僕の意見としては確定事項。
問題は、今後どうするかということ。 これの判断がつかない。
原発を続けるのか、自然エネルギーへ移行するのか。
原発を続ける場合は、高速増殖炉みたいな(一見)危ないものの開発を続けるのか。(どちらに進もうとも、核廃棄物処理はあるので、これはどのみちやる必要がある。)
最終的には、核燃料サイクルの完成と、自然エネルギーの経済性獲得、どちらの期待値が高いかという問題になるのだと思う。
個人的には、核燃料サイクルの完成は望み薄な気がするけど、その場合、どの程度の安全性で核燃料廃棄が可能なのかが焦点になる。 海溝に投棄すれば解決すると言う人もいる(池田センセね)けど、それは流石にどうかと・・・。 また、人為的なミスを防ぐ方策が打たれたとして、それをどう評価すれば良いのか。 ブラックスワン的な事象の影響についても同様。 良くわからんがな~。
一方、自然エネルギー。 原発データと同じように、過大評価されてると思うんだけど、本当の実力が未知数なんだよね。
まあ、この辺は今後の勉強課題ということで一つ。